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ドリフトダイビングにおけるフィンワークについて

うしろからゲストさんの泳ぎを眺めながらフィンワーク(フィンキック)について考えることがあります。速く泳ぐためのフィンワーク、美しいフィンワーク、長く楽に泳げるフィンワーク。フィンワークには様々なスタイルがあり、求めるものによって正解が異なります。

間違ったフィンワーク

フィンワークはひとそれぞれで良いと思うのですがひとつだけ間違ったフィンワークと言うのがあります。それは進まないフィンキックです。具体的に言うとフィンをスライドさせている人ですね。フィンは動かせば当然に水の抵抗を受けて重くなりますが、この重さを避けて楽な動かし方をしてしまうと、進まないフィンキックになりやすいです。もし「どんなにダッシュしてもまったく疲れない」という人は、フィンワークが間違っているかもしれませんね。

ドリフトダイビングにおけるフィンワーク

主にドリフトダイビングをしている方は、群れや大物を追いかけているので、水中で止まることはほとんどないと思います。ただひたすらに泳ぎ続け、被写体を追いかける日々ではないでしょうか。そのときに重要なのは、いかに速く泳ぐかということと、いかに長く泳ぐかということ。「ハンマーダッシュ」という言葉の通り、ハンマーヘッドシャークの群れを見つけたらそれを追いかけてダッシュする人が多いと思いますが、この時のスピードと持久力のバランスをどうするか。その戦略が腕の見せ所だと思います。

フィンワークの基本原則

フィンワークを考える上で重要なのは、股関節、膝、踵の三つの関節の動かし方です。これを理解することで、より効果的なフィンワークが可能になります。ここではドリフトダイビングにおけるフィンワークということで、アップ&ダウンストロークの話で、アオリ足などはまた別の機会にします。

フィンワークのバリエーション

まずは腕を使って検証をしてみると分かりやすいと思います。誰かと向かい合って、その人のことを手のひらで仰ぐところを想像してください。まず手首だけを動かして煽ぐ。次に肘を曲げて煽ぐ。最後に肩を動かして煽ぐ。すると三つのバリエーションができますよね。可動域の違い、必要な力の量、生み出される風力の大きさがそれぞれ異なるのが分かると思います。
これらの動きをそのままフィンワークに当てはめて考えてみると、様々なバリエーションを簡単に検証することができるようになります。

効率と疲労のバランス

肘を動かして煽ぐバリエーションを考えた場合、手首をロックするのかフリーにするのかで風力と疲労度が変わります。ロックすれば上下それぞれで風量が生まれますが、フリーにして腕を上に引き上げるときにスライドさせると風力が生まれません。但し、抵抗が少なくなるので疲労は少なくなります。

自分に合ったフィンワークの選択

肩を動かすバリエーションを考えた場合も同じように、肘をロックするのかフリーにするのかで動作と効果が変わってきます。そしてこれらの動きはそのままフィンワークに応用できるのです。どの動かし方が自分のイメージに合っているのかを考えてみると、正解に近づけるのではないでしょうか。

まず意識して「動かす」のは「膝」なのか「股関節」なのか、です。そして「膝は曲げるのか、曲げないのか」、「踵はロックするのか、しないのか」。これをまとめると以下の6パターンになります。

膝を意識して動かす。足首はフリー、又はロック。
股関節を意識して動かす。膝は曲げる。足首はフリー、又はロック。
股関節を意識して動かす。膝は曲げない。足首はフリー、又はロック。

アップ&ダウンストローク

動かす関節によって6パターンのフィンワークがあると述べましたが、実際にはもう少しバリエーションがあります。それがフィンを下げるときに蹴るのか、上げるときにも蹴るのかです。フィンを上げる、すなわちアップストロークの時には、フィンを踵から引き揚げるようにスライドさせている人がとても多いです。この泳ぎ方はフィンを下げるときに推進力が生まれ、上げるときは休憩タイムになります。このフィンワークの場合、上げるときにも水の抵抗を感じられるようにすると、疲労度は上がりますが、推進力も上げることができます。

スクーバダイビングにおける一般的なフィンワーク

スクーバダイビングでは「膝を意識して動かす。足首はフリー、ダウンストロークのみ蹴る」の人が圧倒的に多いです。これはライセンス取得時のインストラクターにそう教えられた人が多いからだと思います。思い通りに向きを変える、疲れないように泳ぐ、あおり足を織り交ぜる、砂を巻き上げないなど、初心者に要求されるスキルを実践するには膝から動かすのが効率が良いからです。

ドリフトダイビングのフィンワーク

講習後ののんびりダイビングを卒業して、ドリフトダイビングをするようになると、フィンワークに要求される要件が変わってきます。だから初心者時代に覚えたフィンワークを自身で改変することが必要となるのです。フィンワークのことなど何も考えずに、ライセンス講習の時に教えられたフィンキックをそのまま続けていたのでは、速く泳げるようにはなりにくいです。

自然界からの学び

ここまでは、GTなどの硬く短いヒレを持つサカナの動きを参考にして、フィンの使い方と足の動かし方について考察してきましたが、水中にはウミヘビのように違う次元で泳いでいる生物がいることに気が付きました。ウミヘビはカラダを左右にくねらせて前進する「推進波」と呼ばれる動きをします。サカナのように水に対して垂直にヒレを動かすのではなく、水を切るようにしてカラダを動かしているのです。

手のひらだけをフィンと見立てた場合、ここまでの考察は正しいと思いますが、腕全体をフィンと見立てた場合には、ウミヘビタイプの動きも成立することに気が付きませんか?冒頭で「フィンをスライドさせるフィンワークは間違い」と述べましたが、これは「フィンが後ろにスライドしてしまっているフィンワークは間違い」と訂正する必要があります。

非力な女性ながらとても速く泳ぐ人の多くが、しなやかにフィンと脚を動かして進んでいます。あの姿はウミヘビタイプの泳ぎ方だと言えるでしょう。

ウミヘビの泳ぎ方

ウミヘビの動きのように泳ぐには、関節を柔らかくして、フィンをしならせ、脚全体をS字に曲げて使うことが必要でしょう。人の脚には3つの関節しかなく、サカナのように水に対して垂直にヒレを動かす動きしかできないと思われがちですが、しなやかに動かせばウミヘビのように水を切って進むことが出来るようになるかもしれませんね。

衝撃の事実 ~ ハンマーヘッドシャーク

サカナの多くが尾びれだけを推進力にしていると思いがちですが、ほとんどのサカナがウミヘビの動きを取り入れています。ハンマーヘッドシャークもいざという時にはS字型に身をよじらせるようにして進みます。また、硬いフィンを使う人も、ダッシュしている足の動きを見ると綺麗なS字型になっていることがあります。サカナタイプだと思っていた人も、実は無意識にウミヘビの動きをしている場合があるのです。この場合、やはり硬いフィンをしならせるだけの脚力が必要なことが分かります。

次のステップへ

いつだって海の中で他の人のフィンワークを眺めながら効率の良い脚の動かし方を考えていますが、自分自身は完全に特殊タイプです。仕事柄、長く、時に速く、しかし延々と海の中にいる必要があるので、とにかく体力を温存することだけを考えてフィンを動かしています。硬さと言うより、長いフィンをゆったりと動かせば、効率よく移動できる。そんなフィンワークになっています。

フィンはしならせて使うのが正解なのではないかと思っていますが、本当は正解なんてないのかもしれないですね。体形や体格や体力によって、その人に最適なカラダの動かし方は異なるのかもしれません。なかなか出ない答えを模索してこれからも泳ぎ続けましょう。フィンワークの世界は奥が深い。

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